【体験記】家族持ちが社会人博士を目指す 〜研究計画〜教授との相談まで〜

さて、前の記事では社会人博士を取得にあたり具体的な進め方を検討した内容をご紹介しました。今回は研究計画書の作成から教授への相談、そして勤務先に社会人博士に行くことの共有についてご紹介できればとおもいます。

研究計画の検討・研究計画書の作成

まず、研究計画の検討についてです。筆者の例でいうとVR/AR領域の研究に興味があったため、最初はVR/ARで有名な研究室にいくつか検討しました。

研究計画を作るときは(領域によって違うかもしれませんが。)

  • 研究が必要になる背景・どのような問題があるか
  • 既存の研究ではどこまで実現されているか。どこに問題・制限があるか。
  • 自分の研究テーマ・リサーチクエスション・仮説の設定
  • 手法の提示
  • 評価方法の提示

そしてここが難しいポイントですが、この内容が「博士の研究」たる必要があります。これを証明しても博士レベルではない、などのフィードバックがあったりします。ここは教授のフィードバックで考え直したり、関連書籍を読むことをお勧めします。

何を基準に研究室を選ぶか。

研究計画ができたら、研究室選びに入りましょう。研究室の選び方には下記のような基準があるかと思います。

やりたい研究テーマ・分野と合っているかどうか

まず、一番の基準はやはり、自分のやりたいことができそうな研究室であるかどうか、です。博士課程の研究は約3年(4〜5年になるパターンが多い)ほど続きます。研究はある種、孤独との闘いとも言われ、

教授の指導力や人間性

教授は、言うまでもなくその研究分野におけるプロフェッショナルで、非常に優秀な人たちです。しかし一方で、学生への指導能力や人間性といった点については別の能力となります。教授・研究室の指導教員は、研究については非常にとがった専門性を持っている一方で、人間性についてはあまり魅力を感じられない、という人も多いのです。

例えば、柔軟に学生の話を傾聴してくれるのか、多様性の理解を持っているかなど、「人間性」という軸で教授・指導教官を見つめると、新たな可能性が見えてくるかもしれません。もちろん、たった数回の面談だけではなかなか難しいかもしれませんが、Webページなどでも、その教授の考え方などはある程度読み取れます。

研究室の雰囲気・文化

コロナ禍で厳しいとはいえ、一度は研究室の見学であったり、ミーティングに参加してみることをお勧めします。その研究室にはどんな学生がいるのか、また指導教官とはどのような関係性が築かれているか。研究室にはどんな設備があるか、など、確認しておくべきことはさまざまあります。特に筆者は人間関係、雰囲気を予め知っておくことをお勧めします。

社会人であればなおさら「社会人」への理解がある研究室であるか、確認しておくことが大切です。東京大学などのトップ系国立大学は研究へのプロフェッショナル意識が高く、逆にいえば「社会人だからと言って容赦しない」という風潮の研究科であったり研究室であることが多いです。この考え方自体は正しく否定するものではありません。ただ社会人博士を目指す以上は、こう言った多様性の理解があるかどうかが非常に重要であると筆者は考えています。社会人であるからこそ、博士取得の実現可能性を踏まえた上で戦略的に選ぶことが大切と考えられます。

教授との相談内容

候補となる研究室を選んだ後、いくつかの研究室にアタックしてみました。(ここで注意なのですが、メールを送る際、研究計画書やCVを添付していないと、スルーされてしまうケースが結構あります。)私がアタックしたのは国立の情報系です。このように外部から新規で博士課程を希望する場合、教授からフィードバックされるであろうポイントについては概ね下記の通りとなります。

研究内容へのフィードバック

研究計画書をベースに教授に説明すると、当然その内容についてフィードバックをしてもらいます。基本的には一般的に言われる研究計画の型を守って書かれていることが前提になるかと思います。

他の研究との差別化は十分か?既存研究はある程度把握しているか?

そもそも新規性がでているのか。学術的に貢献できているのか、というレビューです。研究能力の証明にも関わるところなので、研究計画を作る上で最も考えておかなければいけない点と言えるでしょう。

なぜその研究室をうちの研究室でやりたいのか?(修士が別の研究室の場合はなぜそこじゃないのか?)

研究室によっては聞かれます。

社会人博士・入学することへの確認(重要度順)

研究能力は十分にあるか?英語論文が読めるか、など。

教授に最も気にされるのは、やはりベースとなる研究能力です。そもそも研究経験がないと、研究の仕方から学ぶことになるため、時間がかかってしまいます。博士は一応「研究のプロ」としてやっていく前提になります。そのため、研究能力がある、少なくとも研究の進め方をわかっているというケイパビリティをある程度示す必要があると考えるべきでしょう。

研究にどのくらいコミットできるか?時間を割けるか?

社会人博士希望者に対して一番聞かれる質問はこれです。研究室によっては、コミットをある程度約束できないと、渋い顔されたりします。この辺りで社会人博士への理解がどれだけあるかがわかります。

研究実績はどのくらいあるか?論文実績など。

研究能力の証明と関連し、研究室によっては、これまでにどのような研究実績があるか査読付き論文の実績などを聞かれることが多いです。

会社の了解はどの程度得られているのか?

これも社会人博士希望者はだいた聞かれます。最近は大学でも社会人博士への理解はだいぶ高まっており、出願の際に、会社の推薦状だったり許可証を必要としない研究科が増えてきています。一方で研究室サイドは、当然研究が業務に支障ないか、などを気にします。筆者としてもやはり会社と交渉して了解を得ておくことをお勧めします。

何年くらいで博士をとろうとしているのか?

社会人博士は当然のことながらフルコミットできないので、ある程度時間がかかることを覚悟できているか聞かれます。大体4年以上は覚悟したほうがいいかも、みたいなことを言われます。

勤務先との共有・位置付けの検討

教授との面談が終わり、研究内容に問題がなければその研究計画書をベースとして、出願準備にかかります。研究科によっては学科試験などもあるので、その対策の勉強が必要となります。社会人博士の場合それらに加えて、勤務先との情報共有を考えなければいけません。社会人博士にとって、勤務先・現業における博士研究の位置付けとして下記のようなパターンです。

A. 完全に勤務先の協力・サポートを得るパターン

博士課程での研究が会社にとっても貢献になる場合、会社が費用負担であったり、業務時間を博士課程の研究に割り当てることを許可してくれるパターンです。一番理想的だと思いますが、研究系の部署でない限りはなかなか敷居が高いかもしれません。

B. 勤務先に理解を得るパターン

費用負担や業務時間の割り当ては認められないものの、自費+業務時間外でやることを会社に共有し、認めてもらった上で進めるパターンです。

C. 勤務先に伝えずに進めるパターン

先述した通り、最近は出願の際に勤務先の許可証明などがなくても問題ないという研究科が増えています。そのため、勤務先に社会人博士のことを共有しなくても、行くことが可能となっている

なお、筆者はBパターンで勤務先に了承を得ました。このような経験から何かしらの形で勤務先に社会人博士に進学することを報告しておくことをお勧めします。博士課程の研究において何かあった時に、会社に理解・協力してもらうという意味でも、予め伝えておくことが望ましいでしょう。

最近は働き方も多様化していることもあり、社会人博士についても理解のある職場が増えてきてると言えるでしょう。(そもそも業務時間外であれば個人の自由なので反対される筋合いはないのですが!)

次回は出願〜入試〜合格までの流れについてご紹介していきます。

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